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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(あ)220号 決定 1985年4月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人島田清の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、原判決の認定によると、被告人は、大型貨物自動車を運転して本件道路を走行中、先行する被害者運転の自転車を追い抜こうとして警笛を吹鳴したのに対し被害者が道路左側の有蓋側溝上に避譲して走行したので、同人を追い抜くことができるものと思って追い抜きを始め、自車左側端と被害者の自転車の右ハンドルグリップとの間に六〇ないし七〇センチメートルの間隔をあけて、その右側を徐行し、かつ、被害者の動向をサイドミラー等で確認しつつ、右自転車と並進したところ、被害者は、自転車走行の安定を失い自転車もろとも転倒して、被告人車左後輪に轢圧されたというのであるが、本件道路は大型貨物自動車の通行が禁止されている幅員四メートル弱の狭隘な道路であり、被害者走行の有蓋側溝に接して民家のブロック塀が設置されていて、道路左端からブロック塀までは約九〇センチメートルの間隔しかなかったこと、側溝上は、蓋と蓋の間や側溝縁と蓋の間に隙間や高低差があって自転車の安全走行に適さない状況であったこと、被害者は七二歳の老人であったことなど原判決の判示する本件の状況下においては、被告人車が追い抜く際に被害者が走行の安定を失い転倒して事故に至る危険が大きいと認められるのであるから、たとえ、同人が被告人車の警笛に応じ避譲して走行していた場合であっても、大型貨物自動車の運転者たる被告人としては、被害者転倒による事故発生の危険を予測して、その追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があったというべきであり、これと同旨の見解に立って被告人の過失を肯認した原判断は正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高島益郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一)

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